窓からの日差しが眩しい。この校舎で一番西側に位置するこの場所は現在真正面から光を浴びている。
放課後、授業とか掃除も全て終わり、学生にとってはちょうど区切りの時間帯だ。
教室の後ろの方で大爆笑を起こしていた女の子達のお喋りもひと段落したようで、一人がドアのほうへ向かって
歩き始めるとそれについていくように全員出て行った。タイプが違うし、クラスメイトで言うのは何だが、あまり接点はない。
自分から「バイバイ」というのもなぁ、等と考えながら青いシャーペンをくるくると回していると、
あちらから「じゃあねー!」と声をかけてきたので、小さく手を振りながら、「明日ね」と見送った。
私は部活に入っていない。今の子たちのようにお喋りをしてから帰る人もいるけれど、
部活に入ってない人のだいたいは早々と帰る。しかし今日の私はそういうわけにはいかなかった。
疲れていたのもあり、日は眩しかったけれど、オレンジ色の暖かい空気に包まれて、少し眠くなる。
こんなことなら休み時間中に書いておけばよかった。そう考えてながら座ったままちょっと伸びをして
半分以上が真っ白の学級日誌を無視するようにだらしなく机にもたれ掛かろうとしていた時だった。
「もし、明日地球が終わるって言われたらどうする?」
余程ボーっとしていたのか、私は彼がいつ入ってきたのも、いつ目の前に座ったのかさえわからなかった。
気持ちのよい伸びをした後、私の行動を止めるように言われたのと、確か昨日あたりに春の特別番組でやっていた
「地球が終わるとき」をテーマにした番組の影響なんだろう、クラスの女子が昼休みにその話題で盛り上がっていたので
不機嫌とまではいかなかったが、少しだけうっとおしいような倦怠感に襲われた。まぁそこまで子供でもないので
その気持ちを外には出さず、心の中へしまっておく。
「そういうの好きな人いるよねぇ。」
崩れかけた頭を再び持ち直した。
先ほどさんざん友達に聞かれたし、本当はあまりこういうのが好きではない。どうして女子はこんなのが好きなんだろうと思い
まじめに答えようなどしたくなかった私は笑ってごまかしながら日誌の続きを書き始めようとした。
「なぁ、どうする?」
連絡事項欄を書こうとしていた手を突然掴まれ、私は止めざるを得なくなった。どう反応していいのか、よくわからなかった。
普段だったらどう反応してただろう。相手に合わせて乗るのも違う。軽くあしらってしまうのも違う。
ただ目の前の彼がいつもと違った雰囲気であることに戸惑ってしまっただけだ。
それにしても何なのだろう。こんなことを私に対して言って来るのは珍しい。
心理テストだとか、占いだとか、女子が好きそうな非現実的な世界はブン太だって好きではないはずだ。
この問は別に心理テストとかなわけではないけれど、これだってあまり常識内では考えない非現実的な話。
まぁこれに関しては絶対ないとは言い切れないのだけれど。
「多分、なんもしないんじゃない?そんなこと言われたって、私が地球をどうにかできるわけじゃないし。」
私は下に目を落とす。何度見ても半分以上がまっさらな学級日誌は私のやる気を更に奪い取る。
そこまで面倒なものじゃないし、書こうと思えばどうにでもなる。だいたいこんなの真面目に書かなくたって平気なはずだ。
こだわったからといって評価されるものでもなし、周りにみせるものでもなし。ただ担任に提出して次の日にコメントかなんかもらえるだけだ。
それだけのものなのに、何故か私は書けない。今日一日の出来事がうまく思い出せない。
考えていたらなんだか字が歪んで見えて、私は手に取ったMONO消しゴムで大雑把にその紙面を擦った。
「…はぁー。今日この台詞何回言ったことか。あ、でも読みかけの本くらいは読んでおくかな。」
私は要らない補足をしたあと、どうでもよくなってシャーペン自体を筆箱の中にしまった。
何もできなくなると、どうでもよくなって、ついには見下してしまう。短所であるとは思う。
だけれどもわかっていて直せるとは思えない。たまにこんな性格していて得だ、とか思ってしまうときだってある。今だってそうだ。
そんなの紙一重だから、と理由をつけなければどうにもならないけれど。
「恋人の目の前にいておいてそれかよ。」
ブン太は飽きれたように笑いながら天井を見上げた。それにつられて私も笑いながら天井を見る。
がらりと世界が変わって、何もなかった。ひたすら真っ白だ。夕日がたまにちらついているけれど
それはただの装飾みたいで、中身はかわらない。ただ真っ白。
満更でもなくなってきた。どうするか、なんてそんなのはその日に任せればいい。
さっきまでは馬鹿にしていたはずなのに、何故だか近い将来のように感じる。冷えた空気が背中を伝うかのようだった。
真面目?真剣?そんな言葉は似合わない。それは知っていた。
「じゃあさ」
今までと声の距離が違った。上にあった視点を自然な高さまで戻すと、目の前にその男の姿はなく、
横から強い風が吹いた。ほんのり暖かい。季節も変わるのかなぁ、なんて柄にもないことを思う。
窓辺にいた赤い髪の毛はオレンジ色の陽を映し更に明るい。色の割には傷んでいなくて綺麗に靡いている。
「明日地球が終わるとか、そんなこともなくて、何にも無かったらどうする?」
運動部の威勢のいい掛け声が聞こえる。露になった額をそのままにしておく。すると気持ちいいくらい胸がスッとした。
シャツが不規則に皺を作る。その背中をずっと見つめていたいと感じた。
不思議な男だ、と私は思う。もっと単純で、簡単な奴だと思っていたけれどとても複雑なのかもしれない。
「さぁ?何もしないんじゃない?」
私は何も書かれていない学級日誌をパタリと閉じた。
ありえない日常を語るより、ありふれた日常を過ごしていくほうがずっと楽だ。やっぱりそう思った。
そして私は彼の隣に駆け寄った。乾いた目に風が通ると少しだけ冷たく感じた。
何もないこの空間で、ちょっとだけ笑った。
優 し い 唄
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立海大附属オンリー日常夢小説企画「今日の予定」出展
06/0501 朝比奈依智
お題配布源→炭酸キャンディー様