あたしが春が苦手な理由。
新しい学年が始まると共に、暖かくてぽかぽかしてぼーっとして、花粉症があって、なんか気だるさに取り巻かれてる。
たしかにそれもある。
だけどもっと単純で我に返っちゃえばバカみたいな理由がある。
それが今のあたしにはとってもとっても大きなところをしめていると思うとなんだか
無償に腹がたってしかたないのだが、と思って少しだけ背の高い丸井を見上げる。
「…春、だな」
「…春だね」
あたしたちはどっちがごみを捨てに行くかで言い争っている最中だったのに、
ちょうどいいとこに居たと言わんばかりに担任が押し付けた資料を返すために、
さらに不機嫌になりながら廊下を歩く。そして今、目の前の光景を目の当たりにして、同時に溜息をついた。
あたしには当分来なさそうな春が、目の前の奴らには来ている。満開の桜、みたいな。
そんな中あたしは、まだまだあたしの心は冬だっつの!という悲痛の心の叫びが
いつの間にか立ち止まって舌打ちという表現に変わって出ていた。
もちろんそれは前のカップルと、隣に居た丸井を驚かさせたのは言うまでも無い。
「お前さー…気持ちはわかるけどもー…」
「公共の場でそーゆうことやられると困るんですー。」
あたしはつんとして重い資料を持ち直し、再び歩こうとする。
丸井は立ち止まったままあたしのことを一笑いする。しかも鼻で笑ったんだよ、こいつ。
「…ただのひがみじゃねーか、それ」
「えぇひがみですよどーせ!それが何か!?」
あたしが逆上して、丸井は再び笑う。それにつられて、あたしも笑う。あたしは丸井のこの顔が好きだ。
笑ったときの、横顔。それだけでなんでも許せちゃうのは、あたしの気持ちがこの男にいっているからなのだろうか。
筋のきれいな整った顔に華が添えられるような笑顔はなんとも愛らしくて女子から人気がでるのは当たり前だなぁと思う毎日。
そして隣にいて、こうして喋れるあたしはちょっと優越感を感じてる。
急に丸井は笑ったようで真面目な、そんな顔して資料を机に置いた。
ほこりかぶった地図帳とか、埴輪の模型だとか、薄暗くてちょっと気味の悪い資料室は
廊下の賑やかさと一線引いてるみたいで、別の空間に来たような感じにとらわれる。
押し付けあってたゴミ箱も、押し付けられた資料も、全部含めてあたしは楽しかった。
くだらないことで言い争って、くだらないことに笑う。それってすごく幸せじゃない?
「毎日毎日そゆこと言ってんだったら彼氏でも作ればいいじゃん。」
だけどあたしはひとつだけ納得いかない。満足してない。
あたしたちのこの"関係"。
「うちのクラスに好みの奴とかいないの?」
ねぇ、気付いてるんでしょ?あたしの気持ち
「うちのクラスには…強いて言うなら隣のクラスの藤野くんとかぁ?」
「あーゆーさわやか系好みかよ」
「そーよ。悪い?」
重たい資料に手がしびれ始めたあたしも机に全部置いて、それから曲がったスカートを直した。
もちろん藤野くんなんて好きじゃない。というより、好き嫌いの基準に入らない。
しいて接点をあげるなら、去年半年だけ委員会が一緒だったってことだけ。
特にそれ以外で喋ったこともない。名前を出したのはちょうど今目の前をクラスの男子達と
走り抜けていったのが目に入ったから。
あぁホントに素直じゃないね。素直で可愛い女の子だったら、今頃あたしたちの関係は
もっと違ってたんだろうか?そんな宛てもないことも考えた。
だけど現実の素直じゃないあたしはやっぱりそのひねくれた考えにも気付いてほしくて。
なんて、矛盾。
丸井は担任に言われたことをさっさとやり終えると、資料室のドアを再び開き、
後ろにいたあたしに振り返って「ふぅん?」と一言そういった。そんなことを、薄い反応で返されたから、
あたしはちょっと落ち込んだ。そしてあたしはいつの間にかなんだか悔しくなって心の中膨れてたんだ。
「とりあえず丸井じゃないってことくらいだよ」
あたしも鼻を鳴らす。なんとなく、丸井と目を合わすのが怖くて一瞬ちらっと見てから
何もない横の空間を見つめた。丸井は何を言うでもなく、ただ小さく笑った。
ホントにあたしって、ばか。
違うの。あたしはそんなことがいいたいんじゃない。それにも気付いてよ。
その場の感情に流されるあたしはいつも心と言葉が一致しない。
…あたしが素直になれないことくらい、わかってよ。
自分勝手な強がりばっかり。あたしが悪いよね。だけどあたしだって、あんたの気持ちくらい、知ってるつもり。
今みたいに二人きりになることだって少なくないのに。
いつまでこういう微妙な位置に立ってればいいの?いつまでもいい友達で終わっちゃうの?
あたしたちに今必要なのは、"言葉"。
短くて簡単で、深くて愛情のある、"言葉"。
いつになったら、ここから渡っていいの?
納得してないのは、あたしだけなの?
あたしは毎日どうしようもない不安に駆られてる。あたしから見えるのは、まだ赤信号。
春の生温い風があたしの前髪をさらって、追憶にも似た教室にオレンジ色の太陽を飾った。
No
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