あつーい夏はコンビニへ。
夏 色 淡 恋
新しい学校生活が始まって約2ヶ月。気分も新たに、なんて思いたいけど
中高一貫の青学で残念ながらそんな風には思えない。
あたしは高校生活が始まって初っ端悪いことをしている。
学校の最寄駅より1つ手前のこの駅で校則上してはいけないバイトをしている。
本当は募集のないところを無理にお願いをしてこのコンビニで働かせてもらっているが
近くなのですぐにバレるだろうと踏んでいた。
しかし灯台下暗し、というやつなのだろうか1つ前の駅で同じ金額なのにわざわざ降りる
先生などいなくて未だに全くといっていいほどバレていない。
生徒の中でもあたしの友達の何人かは知っているがもちろん少数だけで
わざとバラすようなこともしてくれないので助かっている。
他の生徒は前に述べた理由と同じく知っている人はいないと思う。
たまに近くで遊んでいて知っている青学の生徒が来たりするけれど
その時はあたしの事情を知っている仲良くなったバイトの先輩に
ヘルプをコールして代わってもらっている。そのお陰で至って順調に仕事を続けられている。
「330円でーす。」
と言いながらガサガサとビニール袋を取りだし、早く仕事を切り上げてきたのかわからないけど
仕事帰りかなんかのオジさんが持ってきた少年ジャンプとリゲインを丁寧にその中へ入れて手渡す。
おっさんのくせに少年ジャンプかよと思いつつも立ち読みしている奴より良いか、
と思い過ごした。そういう事はこの月曜日に何度も思ってしまう。
オジさんは商品と引き換えにポケットから1コイン、500円を差し出した。
その500円を受けとってチーンと軽快な音をならしながらレジを開け、
お釣の170円分を探すまでも無く取り出して横から伸びてくるレシートと一緒に渡した。
もう2ヶ月もやっている作業なのでお金の位置など見なくても指先が覚えていた。
「ありがとうございましたー。」
その言葉を言った後「お疲れ様」と続けてしまいたくなる背中を見送って全てが終わったような開放感に浸る。
あと1時間もすればそんな悠長なことはしていられない。しかし現在夕方5:30微妙な時間とあって
利用する客は少ない。利益は上がらないし、あたしのバイト代だって少なくなるかもしれないのに
この休憩、みたいに入る雰囲気がいたって好きなあたしが憎い。
冷房がんがんで涼しいどころか寒いとも言えるこのコンビニ内に日本の夏特有の
むわっと大量に湿気が混じったような嫌な空気と共に男性客が入ってきた。
コンタクトレンズを学校に忘れあまり良く見えず、その上誰が入ってきたなんて
バレてないという安心感からかあまり気にしなくなっていたあたしは
そのままレジの前に突っ立っていらっしゃいませー、と言いながら見過ごした。
が、暇なので気付かれない程度にその人を観察して見る事にした。
その男の人は入ってすぐ横にある雑誌やら漫画やらが置いてある所へ行き、
またしても少年ジャンプを持ち上げパラパラとページを捲り始めた。
何だよコイツもまた立ち読みかよ、読むんだったら買って帰りやがれ、
店の利益にならないだろが。と悪態を付いたが、お金のないあたしはジャンプを買えるほど
余裕がなくてちゃっかり別のコンビニで毎週立ち読みをしている。
そんな事をしているあたしだが、店側に立って見るとあたしのバイト代にも関わってくるので
そこで読むんじゃなくて買って行けよ、と思ってしまう心理である。
その人はパラパラと軽読みをしながらページを捲っている。内容掴めてるのかなぁとか
余計な心配をしながらちょっとした出来心でその人の顔を見つめる。
あたしから見て横顔だったがとても綺麗であたしなんかより随分整っている。
肌は少し焼けているけど、見るからに滑々してそうで凄く羨ましい。
髪は赤色掛かった茶色をしていて、特徴のあるはね方…
ていうか菊丸!?
通りで見たことのあるようなシルエットだと思った。あたしとした事が迂闊だった。
クーラーなど付いていなかったかのように背中からは一筋の汗が垂れてくるのがわかる。
汗は汗でも、冷や汗の部類だ。心臓はそれに連なってどんどん心拍数を増していく。
菊丸はまだジャンプを読んでいるので気付かれていない事を祈りながら
先輩に助けを求めようと周りを慌てて見渡す。…しかし先輩は何処にも見当たらない。そういえば20分前くらいに
ちょっとそこまでと言ったっきり戻ってきていない。あたしはこんな時に限って、と
ガックリと肩を落とした。
菊丸は何故だかは知らないが今まででも何度か此処へわざわざやってきていた。
この辺家近いのかな、なんて思いながらやってくる度なんとかやり繰りしてきた。
だからもの凄く注意していたのだけど今日に限ってくるとは思わなかった。
あたしは誰かレジに入ってくれますように、と願い、お店の裏へ急いで逃げ込んだ。
しかしずっと隠れて店長に見つかりでもしたらあたしは間違いなく辞めさせられる。
なんせ願い下げの身なのでサボってるようにみられたら大変だ。
あたしは調達したばかりではあるがとにかく何もしないよりは良い思い
その辺にある商品を手当たり次第に詰め会わないように警戒しながらわざと
調達していった。適当に商品を山積みしてしまったためさり気なくずっしりとくる重さだった。
まだまだ心拍数は上がる。どんどん上がる。本当に此処にクーラーなど付いていたんだっけ、
と2度も思ってしまうほどに体温すら上がってくる。焦りすぎて何がなんだかわからなくなってきた。
冷静を取り戻せ、。そう考えた瞬間、あたしのまわりの景色は一気に足元くらいまでに落ちていた。
「ぎゃ!!」
ドリンクコーナーの前で女子では考えにくい変な声を出したと同時にあたしは派手にこけた。
目の前に水滴が垂れているのに気が付かず、そこへ悠々とつっこんでしまっていた。
あたしは商品をぶちまけ、それと一緒にあたしの体もぶちまけている。
あたしはその瞬間全てがどうでも良く思えてきていた。
落とした衝撃とあたしと床との体当たりで凄い音がしたのかお客さんの注目を集め
大丈夫ですか、と声をかけられる。本当はかなり痛くて大丈夫では無いのだが
先輩に教えてもらったコンビニ特有の愛想笑いをしながら大丈夫です、なんて返した。
それが今とてつもなく恥ずかしかった。
ぶちまけた商品を再び篭へ戻そうと商品を寄せ集めた。顔から火が出る思い、
というのがなんとなく、というよりとてもわかる気がした。
するとあたしの後ろで一緒にぶちまけた商品をあつめてくれている人がいた。
本心手伝ってもらいたかったが、今現在こちらの立場はお店側ということあって
「有り難うございます。でも大丈夫です、一人で出来ます。」
とあたしなりに丁寧に断った。
「いや、いいよ。これくらい。」
そういうとその人は残りの商品を篭のなかへ戻してくれた。あたしは深深とおじぎをした。
「ホンッとスミマセン!迷惑をおかけしました!ありが…って、え!?」
顔を上げるとなんと拾ってくれていたのは菊丸だった。
「って見た目によらずよくドジるよね。」とか言われたけど今はそんな事に対して
反抗できるような余裕はなかった。これであたしがここでバイトしているのが
完璧にバレてしまった。もう、あたしの馬鹿と考えながら今日という日を憎んだ。
あのお喋りでお調子者の菊丸が皆に言わないはずがない。そうなれば先生に伝わってしまうのも
時間の問題だ。ああ、サヨナラあたしのお金たち…とか幸先悪いことばかり考えず
少ない希望に託してとりあえず頼んで見た。
「菊丸…あの、お願いなんスけど…その…バイトしてる事言わないでくれます?」
と小声気味にわざと下手になって物を言ってみた。
「何言ってんの?今更言わないって、そんな事。」
「ありがと…っていうか今更ってあんた知ってたの!?」
「この俺が気付かない訳ないでしょーが!バイトし始めた最初の頃から知ってるよ。」
悪戯っぽい笑顔とお得意のブイサインをあたしに見せつけた。輝かしくも見えるそれは
あたしに溜息を作らせた。まさか知っていたとは思わなかった。あの菊丸が知っていたのなら
とうに噂は広まっていると思っていたから。
「…黙っててくれたの?」
「まぁね。始めはビックリしちゃったよ。あの才色兼備で真面目なが!?ってね。」
「…。」
あたしは別に真面目ヅラをしていた覚えは無いが、授業中眼鏡をかけてとりあえず
座っていれば真面目に見えると茶化されたことは何度かある。
商品を全部戻し終えたあたし達はもうバレているので諦め、誰もレジに入ってくれて
いないのでまだ買っていなかった菊丸の商品を一緒にレジまで持っていった。
菊丸はスポーツドリンクと甘そうなパンと、そして先程まで立ち読みしていた
ジャンプを買った。あ、なんだジャンプ結局買うんじゃん。とか思いながらも
口にはせずに470円、とだけ言った。500円をはい、と出してきた菊丸にあたしは
ソレを受け取るとまた軽音をならし10円を3枚取りだし、白いレシートと共に
疑問を加えて渡した。
「…なんで言わなかったの?」
「だって校則違反だろ?コレ。が困るじゃん。」
「そうだけど、菊丸だったらこういうの面白がって言うのかと思った。」
「まぁ他の奴だったら言うかもね。でも好きな人の邪魔をするほど性悪でもないし、
そもそも此処にはに会いに来てるようなもんだから。」
楽しみなくなるじゃん、とニカッと笑う菊丸に対してあたしはその言葉の意味を
とっさには理解できなかった。
菊丸はアリガトと一言言ってあたしの手から半透明のビニール袋を受け取った。
お釣とレシートを受け取る際にお互いの手がほんの少し触れた。
普段普通に生活してたって男子と手が触れる事はあるけど(あたし的には嫌だけど)
そんな言葉を言った後の菊丸の指があたしの肌に触れた瞬間無意識のうちに反応し
不本意ながらも体中の血液という血液があたしの顔に集まってくるような気がした。
菊丸は今度おごれよー、なんて言いながらまた湿気混じった蒸暑い中へ帰っていった。
* * *
英二があんまりでてなくてごめんなさい。
結構前に書いたものなので、ゴミバコ行きしてました。
修正してないです。成長してないんですね。
ちなみにコンビニのバイトやるのが私の夢です。(ちっさ!)
2006.4.19