雲一つない青空、煌めく太陽、ただっ広い屋上。
何一つ淀みがないこのシチュエーションであたしはあーあーと言いながらため息をつき軽く大の字になって寝そべった。



...なんなのよ、今日の完璧すぎる天気は。

天気予報では曇りのち雨と言っていたからちょっとでもぐずった天気なら同調しそうなこの気持ちも
少しは晴れるかと思ってでてきたのに。こんな晴天じゃ空しさに襲われて泣き出しそうになる。
まぁ泣くなんて自分のプライドが許さないから泣かないけど。


ちょっと失敗だったかもしれない。
この空の下じゃ何も包み隠さず惜し気もなく全てがさらけ出されてるみたいで急に不安になった。
もう帰ろう、幾度と思ったのに青く煌めくパノラマがあたしを掴んで離してくれない。そういう感覚だった。
眩しい日差しに手をかざす。



「くっそー…あたしの気持ちなんか気付いてるくせに!」




重い屋上入口のドアがガタガタっと音をたてた。
「え」っと声に出して入口を見てみたが、誰もいない。
当たり前か、と心で声を漏らしバカバカしくなった自分を鼻で笑った。

こんな言葉を漏らした後に本人が出てくる、なんて少女マンガ的展開なんてありえない。
結果を見てみるとただ自分の独り言に風が悪戯しただけだ。胸にぽっかり開いた風穴にさらに乾風を流すなんて、
随分趣味の悪いことしてくれるじゃない。


「アホらし。帰ろ」


重たいドアをガンっと一蹴してやってから屋上を後にした。
















「…春、だなー」
「…春だねー」
「これ昨日も言ってたよな俺」
「昨日も一昨日もその前も言ってたよねー」
「…もう帰ろうぜ」




翌日放課後のこと。あたしはうん、と頷きながら右斜め、ちょっとだけ上にある丸井の顔をちらっと見る。
いわゆる、スプリング・ハズ・カムというやつだ。とにかくこの帰り際の廊下には帰り道をともにするカップルで
あふれているわけで、そんな中あたしは勝手にイライラするわけで。
なんかもう目の前にいる男女の組全部が全部カップルに見えたりして


だから今こうして丸井と2人で歩いているあたしたちも周りから見ればそんな風に見えるのかな、
なんてちょっと乙女チックなことを考えてみたけれど、膨大な資料のせいで足元がおぼつかなくなっている姿は
いかにも係りの仕事をやってます、というようにしか見えないだろう。
見た目通り学級委員というのは名ばかりの担任専用雑用のあたしたちはいつもの如く雑務を押し付けられている最中だった。


担任への愚痴とか、周りへの僻みとか、そんなくだらないことしか言わないけれど
雑務を終えたら一緒にそのまま帰る特権みたいなものを有してるあたしはやっぱりここから抜け出せないわけで。



「、好きな人とかいないの?」



そういう突然の彼の質問にも、あたしは意外に冷静だったりして。
だってずっと隣にいながらも、この浮ついた気持ちを隠してきてるんだから。



「とりあえず丸井じゃないから安心して」



あぁ、ほんとにもう可愛くない。




帰り道、歩道を一緒に歩く。
ちゃんと車道側に立って歩いてくれる、なんて紳士なことはしてくれないけど
「うわっ危ね」って言いながらちゃんと腕を引いてくれる。
今朝方降った雨のせいで出来た水溜りに突っ込んだ車はあたしの下半身に水を浴びせる結果になったけど
今はそれも許すことにした。「ゴメン、遅かった」なんて笑いながら言う丸井の顔はどうしようもなく愛おしい。

その気持ちとは相反してあたしは「ありがとう」と言いながら丸井の腕を押しのける。
押しのけたくなんかなかった。ホントはずっとそのままの体勢でいてほしかった。

もう全部言ってしまいたかった。いっそ楽になれそう。先にある期待を募らせるには充分だったし自信もあった。
だけどどうしようもない不安に駆られるのはあたしから言う勇気なんてないからなんだ。



好きな人いないのかと聞かれて「あんたじゃないことは確か」とか憎まれ口叩くところとか
引き寄せてくれたのに、パッと突き放すところとか

素直じゃないなんてコトバじゃ足りないくらいあたしには可愛げがない。
ねぇ、だからあんたから言ってよ。あたしには無理だから。いつまでこの関係続けてるつもりなの?
気付いてるんでしょ、あたしの気持ちも。あんたの気持ちもわかってる。



そんなとりとめもないことを考えて丸井の赤い髪を見る。ふわふわしてる髪の毛一本でも
丸ごと愛してみたいのに、素直になれないのはあたしがまだ子どもだから。
自分勝手な妄想につき合わせて急に苦しくなった胸を開放したくてあたしは丸井の鞄に手をかけた。






ある日の彼女のメランコリー








-------------------------------------
まぁシグナルの短いバージョンということで
(080531)