「あのね、好きになるかどうかってうのは可愛いからとか美人だからとかそういうものじゃないわけですよ。
化粧の上手さでもないと思うんですよ。」
「…彼氏のいないあんたにそんなこと言われても説得力どころか負け犬の遠吠えにしか聞こえないんだけど」
「…」




























Before X'mas




























メリークリスマス!(微笑ましいほど爽やかな笑顔で)

一年のうちに幾度かある悲しい悲しいイベントの一つがやってきましたね。
私には縁もゆかりもないこの季節。街の中はイルミネーションに彩られて寒いながらも暖かさに見舞われたような
空間が広がってます。その暖かさの原因を作っているのは間違いなく周りのカップルどもで
どーもあたしはその周りにいると激しいほどの温度差を感じてなりません。
そんな違いすぎる世界を目の前にしたあたしは溜息をついた




「ていうかさぁ!元々日本にはクリスマスなんてものはなかったわけ!それをどっかの誰かが外国の風習取り入れやがって、
しまいにはクリスマスは恋人達の日だなんて言う勘違い野郎が現われるからさぁ!」
「…」
「…」
「さーて帰ろうかな」
「ちょっと待ちな!あんたどこ行く気?あたしに黙って抜け駆けか!?」
「何、どこ行くのか聞きたいの?いいの?責任取らないよ」
「…」
「彼氏のクリスマスプレゼント買いに行ってそれから彼氏とデートなのぉー」


あたしの必死の主張と無言を無視して語尾にハートでもつけたかのようなあがる調子にあたしは耳を塞いで
何も聞こえない振りをする。そんなあたしを更に無視するようにそのままの状態で腕を引っ張られ、
引きずられるようにして教室をでた。


「ねーあたしもついてっちゃダメ?」
「買い物だけならね」
「デートにも付き添いさせてよー」
「何わけわかんないこと言ってんの。あたしたちの時間を邪魔しないでよね。いっそあんたの大好きな丸井でも誘えばいいじゃない。」
「ぎゃー!声でかい!聞かれてたらどうすんのさ!」
「じゃせいぜい独り寂しく過ごすのね。」
「…この薄情者ー。あたしが去年どんだけ寂しい思いをしたか知らないだろぉ!」


去年のクリスマス。そう、あれも寒い寒い日だった。
イヴの夜は独り身の二人の女達とあたしの計三名でやけくそオールナイトパーティーを三ヶ月も前から予定していた
というのに、そのうち二人(あたしを除く)が裏切りやがって、彼氏なんぞをつくりやがった。
このあたしを差し置いて…!クリスマス当日になっても他にあたしと過ごしてくれようなんて奴は現われず、
最終的に家族と過ごすのかと肩を落としていたところ、

「あたしたち昔の友人と久々に会うことになったから。あ、あんたは彼氏とでも一緒に過ごしなさいよ。」

という何の嫌がらせなのかわからないほどの最悪なセリフを残した。あたしは家族にも見捨てられ、
一人悲しくコンビニのおでんとケーキという異色の組み合わせにチャレンジし、案の定次の日には胸焼け、
気持ち悪くなり寝込んでクリスマスを過ごした。



…そんな悲しい過去。
「あー思い出したくねー畜生ー!」

あたしは何故か華やかに見える、帰る生徒でいっぱいな廊下の、見下ろせば校庭が見える窓の外に叫ぶようにして
大声をだした。そんな痛いほどのあたしの姿に周りは驚き、そしてかなり引いていたようだった。
だけどあたしはめげない。今はこの惨めさだけで充分だった。
腕を引っ張る友人はあたしに慣れているのか、あるいは痛い姿に同情しているのかはわからなかったが、
何食わぬ顔ではいはい、と聞き流しながら廊下を抜けていく。悔しさに涙が溢れそう


「まぁまぁ落ち着きなさいよ。ほら、丸井も今日暇だって。」
「へぇーそんなんだ。丸井も可哀想な道を辿るのね…てか丸井!?何故!?」
「お前よー暇だって決め付けんなよ、失礼な」


妙に自然で違和感なさ気に喋りかけるにあたしは数秒おかしいところに気付かず、下駄箱の前で靴を
履き替えようとしている丸井に気付くのも遅かった。


「いいでしょ、だって本当のことじゃない。」
「…まぁそうなんだけど」
「ほら暇だって!一緒に遊んできな!」
「お前人を余り者みたく言うなよ。」
「は!?何で!?何言ってんの!てか丸井部活は!?」
「今日は定休日だけど」



はふーんと頷いてから不敵ににやりと笑う。そしてそれを周りをキラキラ輝かせながら
精一杯の笑顔に変えて、丸井を見、あたしを見、肩を叩かれた。

「じゃあ私帰るから。素敵なイヴを過ごしなさい!」
「ちょっと待てコラァー!!」
「大丈夫。あんた人並みには可愛いんだから!なんなら押し倒しちゃってもOKよ。ちゃんが保証したげる!」

あたしは逃げようとするを必死に捕まえる。やっとのことで腕を掴み取るとは再びキラキラ付きの
笑顔を振りまいて、びしっという効果音がつかんとばかりに親指を立てた。
あたしは呆れて、いや心のうちで諦めたようで掴んでいた手に突如力が入らなくなった。
はそのまま手をすり抜け、瞬間見ぬ間に視界から消えてしまった。


「…」
「…」


あたしはぱっと丸井を見る。丸井もあたしと同じような表情を作っていた。
あたしたちは互いに苦笑する。


「…どうすんの」
「どうするって、帰るでしょ?どーせクリスマスなんてあたしには無関係もいいところなんだから。
また去年みたく家で独りおでん啜ってるわ!」
「(…おでん?)じゃなくて、これからどこ行くかって聞いてんの。」
「あーそっち。そーね…ってはぁ!?何言ってんのあんた!」
「(…ノリツッコミか)どーせ暇なんだろ、この後。俺も暇だし。」
「…マジで言ってんの?」
「何、じゃあそのまままっすぐ帰っておでん食べて寝るのか?」
「ぎゃー!それだけはいやー!」


あたしは頭を押さえて喚き立てる。心の中で葛藤すればいいものを声に出したり、アクションで示す
あたしは、端から見ればただの変人。実際イロモノを見るような目で周りが見ていることは嘘じゃない。
だけどあたしはどうするべきかわからなくなっていたのは事実で周りなんか気にしている場合じゃなかったんだ。
だって丸井なんだよ?嬉しいけど、なにしていいかわかんないし、こんな状態じゃ恥さらすことになりそうだし、
けど家に帰れば独りでまたおでん…
丸井はあたしのそれが治まるまでずっと黙って表情一つ変えずに見ていたらしい。

あたしは突然固まった。考えが唐突にまとまった。
丸井が先に口を開いた。


「…で?」
「…ご一緒してもよろしいですか!」


あたしの必死の表情に丸井は堪えていた笑いをとうとう堪えられなくなり、ぷっと噴き出した。
よくよく考えたら、あたしまで面白くなってきちゃって、笑ってしまう。
どんどん笑いはこみ上げてくる。


「よっしゃ行くか!」
「おー!」






@ @ @






街に出るとどこに気合を入れているのかわからないくらいに光を放っていた。
去年はもっとカラフルだったな、と思い出しながら青い光に包まれた並木道の中を歩く。
そういえば今年は大人っぽさを演出したいと担当者がテレビで言っていたのを思い出した。


「わー綺麗…」

毎年毎年派手な飾りで、地元では有名なこの場所は自分が行きたいと言ったのに場違いだなぁと苦笑した。
苦笑で抑えられたんだから、褒めて欲しい。どう考えても自分がいるべき場所じゃない。
それはこの時期ここを通るたび毎日思うことだ。しかし今日は特別な日で、特別な二人しか受け入れられないのだ。
あたしはちらりと丸井を見る。なんとなく、同じことを考えていそうで、敢えてなにも聞かなかった。







あたしはふっと思い立ってとまった。ここまでに乗せられてきちゃったようなもんだけど、
これで本当によかったのか。あたしはいいよ?寧ろ全然嬉しいし、クリスマスだけといわずにいきたい。
だけど、だけど丸井は?勢いでこんなことになって、これでよかったの?


「ねぇ」
「ん?」
「ホントに、よかったの?」
「…何が?」
「何って、今日…今。」
「別に。何でそんな急に」
「暇だったんなら、尚更あたしと一緒じゃないほうがよかったんじゃない!?友達と遊んだほうがよっぽど…」


あたしはほんの少しの勇気、いやほとんどの勇気を使って聞いてみた。
本当はこんなこと聞かないほうが良いに決まっている。良くも悪くも、相手の気持ちすら
知らずに長い間こうして一緒にいられる。だけど聞いてしまったら?
悪いほうへ転がったなら、これであたしたちが共有する時間は終わりだ。
だけど聞かずにはいられなかった。


「バーカ。ただの暇でこんなんするかよ」

…え?

「俺だって、今必死だよ」


丸井は更に言葉を続ける。驚くのも、言葉を返すのも忘れていた。


「だからきたんだよ!」


あたしは今、どんな顔してる?あたしの予想では大嫌いな犬が目の前にいたときの表情より、
もっと酷い。目を出来るだけ大きく開いて、口は半開き。そうだ、そんな顔してる。


「…もっと良い顔しろよな」
「…え?あッ…ごめん」
「ったくよぉー。こっちが恥ずかしくなんじゃん」
「…だって、なんて返していいか…」

あたしは冗談ではなく本気でわからなかった。
どういう顔していいのかもわからなかった。こんなの、初めてなんだもん。
だって、あたしは今。


「ついてくりゃいーんだよ。ほら行くぜぃ!」
「わっ、ちょっと!」


あたしの腕は丸井に掴まれイルミネーションの坂を上っていく。
今年のクリスマスは独りで過ごさないでよさそう。それだけで嬉しいのに、
しかも、あたしの大好きな人と。


「これからも?」
「そう。これからも付いてきて。」


丸井はあたしの腕を、手に持ち替えた。指を、しっかり絡ませて。





Merry X'mas!







−−−−
今年のイヴがまさか日曜だったとは思わなかったので。(自分に関係ないからね。笑)
ともかくみなさんは良いクリスマスを過ごしてくださいね!

(061224)