「あーもーどうすればいいんだろ…」


そういいながら目の前の女子は机に崩れかかる。突っ伏すそいつに何もしてやれず、
俺はただその姿を見つめているだけだった。


「…どうするって、ねぇ」


朝のホームルームが始まる前の教室はあちこちで蝉が鳴いている公園のようで、
気にしなければとくに五月蝿く聞こえるわけでもなく、周りの話に耳を傾けようとも思わなかった。
そんな喧騒とした中、再びは顔を上げる。嫌味ったらしく深い溜息をついてから
俺に向かった口を開いた


「図太い赤也にはこの乙女心がわからないのね」


俺がわかっても仕方ないと心の中で思いながら教壇のちょうど真上にある時計に目をやった。
いつからこんなに恋の相談なんかをされるようになったのかは覚えてないが、
仲良くなったのは一ヵ月半前にした席替えのときだ。それまでは話もしたことなかったのに
今では女子でこいつ以外にこんなに話が合った奴はいないと思えるほど親しくなった。
要するに周囲も認めるほどの「たまたま出会った有数の気の合う良き友達」だ。

だけどが俺にそんな話をしてくる度に俺の機嫌は頗る悪くなる。
その理由は勿論


「あ、そうだよ。赤也テニス部一緒じゃん。」
「…まぁそうだけど」
「今度好きなもの奢ってあげるからさぁー」
「…俺が口利けと。」
「さっすが切原クン!話がわかってんじゃないの。」



俺たちは周囲も認めるほどの「たまたま出会った有数の気の合う良き友達」。だけど俺はそんなの認めてない。




目を輝かせるというのはこういうことか、と心の中で落胆した。
いかにも期待に満ち溢れた顔で見上げてくるそいつに俺は横目で見た。


が俺以外に好きな奴がいることくらい結構前から知っていた。
だけどそれが喋ったことも名前すらも知らない憧れの先輩で、俺がそのの好きな奴とやらを
知ったのは昨日の事だった。直感で嫌な予感がしていたが、案の定的中して
どうやらその憧れの先輩というのがテニス部の、俺と仲のいい先輩だった。


「お願いします!メアド教えてもらえれば充分だからさぁ」


気持ちの表れか、高ぶりなのかそんなことは知らないがいつもより大きい声と
高い声のトーンでは顔の前で手を合わせた。


だけど俺だって図太いわけじゃない。他人にはそうかもしれないけど、自分の気持ちにくらい
正直すぎるほど気付いている。こんなに心を揺さぶられるのなんて初めてなんだ。
だから目の前のこの女の言動と行動に嫉妬せざるを得ない。



「…やめとけよ」
「え?」
「やめとけよ、仁王先輩なんて」
「な、なんでよ」
「あの人じゃなくても、他にいるだろ」
「何なのそれ!だいたい他って誰よ!?」


これだから友達と認められた奴は不利なんだ。
隙がありすぎるほどに目を見開いたは俺を見上げ、眉間に皺を寄せて答えをじっと待つ。
頬杖を付いた俺はわざと横を向いて、くそ真面目な顔して返してやろうと思った。
俺はずっと我慢していたこの言葉に口を必死で開く。



「俺とか」



はやっぱり隙がありすぎる程にぽかんと口を開ける。
そんな姿を見て俺は余計に恥ずかしくなった。俺は今、少ない文字数でこいつに全てを
ぶちまけたんだ。だけど。



「冗談やめてよー」


笑い声を上げながらは俺を見上げる。「わけわかんなーい」と一人で楽しそうに笑うに対して
俺のほうがわけがわからなかった。何も言葉が出てこない。


「…もしかして協力、してくれないの?」



何かに気付いたように笑うのを止め、まじまじと俺を見たちょうど
その時は他のクラスの友達に呼ばれたようで返事をしながら席から立ち上がった。



「あ、じゃあ赤也、よろしくね!…それと」


俺の精一杯は冗談に流されたんだと大分後で気付かされた。有無を言わさず一方的に喋る
を俺はぼんやり見上げ適当に返事をして、それ以上は何も言わなかった。


「さっきのはあたしじゃなくて赤也の好きな子に言ってあげなよ」


それだけ言うと俺の知らない友達のほうへ笑いながら飛んでいく。
何も言わないんじゃなくて、何も言えない。否定されたこの感情にどう対応していいのか
見当も付かない。まるで夜道を獣のようで、次に当たるものが何なのかわからない。
こぼれ出る言葉は主張する俺を更に弱くさせる。


「…だから言ったんじゃねーかよ。」


そんな独り言がに聞こえるわけもなく、俺に背を向けて教室を出て行った。
俺は遠慮気味に乗っかっているお茶の入ったペットボトルを睨みつけて、
それから三分の一くらいの量を一気に飲み干した。



(お前のほーが、全然図太いんだよ)



混沌とした教室の中で俺に気付くのは誰もおらず、壊したかった関係に逆戻りした俺は
諦めにも似た笑い方を覚えた。
言わなきゃよかったのかと考える前に過去の時間には戻れないことを悟り、
これから後のことをどう処理するか、それとももう何もしないほうが良いのかを考えることにした。

今日という日はまだまだ長い。








I'm here

(俺が、ここにいるのに)









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テニスの王子様only夢小説企画「With」出展

07/0303 朝比奈依智