「嫉妬。」
「は?」
「嫉妬でしょ。ジェラシー。」
「…なんなの?」


購買から戻ってきた赤也は帰ってくるなり私に言った。
私の机と向き合わされた机上にお昼ごはん定番の焼きそばパンとウーロン茶が置かれた。
はい、と手渡された焼きそばパンと引き換えに私は小銭を渡そうとしたが
彼女であるはずの私にさえいつも割り勘と言ってくる赤也が珍しく俺の奢りだとか言ったので
私は遠慮もせずに小銭を財布に戻した。



「さっき俺が3組の子と喋ってたとき。」
「…」



なんとなく、喉元に力が入った。
赤也が言った言葉にできるだけ反応しないように、先ほどから読んでいた雑誌に再び目を落とす。


「お前、いつも寝てるくせに俺たちのことずーっと見てたろ。」
「失礼な。いつも寝てるなんて、英語の時間はお昼寝タイムの赤也くんと一緒にしないでくれません? 私が寝てるのは10分休みだけですー。」
「その話はどうでもいいの。違うでしょ。そうやっていつも話題ずらすなって。」


私は話の視点を変えてどうにか誤魔化そうと思ったが、今までに何度もやってしまった手段なので
赤也なんかにすぐにばれてしまった。

「俺が他の子と楽しそうに喋ってたから」
「違うから。だいたい、今日の放課後委員会の仕事があるってだけの内容でしょ?」
「へぇ。全部聞いてたんだ。」

あーもー私の馬鹿。何自分からそんなこと口走ってんの!
赤也は悪戯に、少年のごとく笑う。私はこの顔が好きだったりするのだが、
そんな悠長なこと考えている場合ではない。自分からではあるが、
圧倒的に不利な状況に立たされてしまった。何故か嫌な予感がしてわざと雑誌の記事に注目している振りをした。

「じゃあ俺があの子の耳元で喋ったときはさぞご立腹だったんだろうなぁ。」

お昼時特有のポーっとした頭に数時間前の記憶が蘇る。赤也は口元を手で覆い小柄な3組の女の子の
横顔に触れながら小さく囁く。赤也に言われたとおりで私はそれをしっかり見ていたのだが
赤也と目が合ったような気がしてすぐに窓の外へと逸らした。

今、赤也の笑い声が聞こえてきた気がする。

その女の子は廊下を、顔を真っ赤にしながら走っていくもんだから、私は。
心の奥で唸る。この続きを思い出したくない。私は今どうやっても赤面する自分を免れることができない。


「…確かに、胸中穏やかじゃなかったっすよ。」

箸を口に運びながら言った私に対して赤也は更に笑った。失礼なことに、腹まで抱えて笑われた。
私の気持ちは赤也なんかにわかるくらいむき出しだったのだろうか。
そのことが恥ずかしくて、情けなくて、悔しかった。
そんなことを気にするわけもなく私の体中の体温は一気に上昇を見せる。


「あぁもう!悔しい!」

制御できないこの火照った体をどうすることもできず、いい方法も見つからずに、
成す術なく自分の腕に蹲った。赤也は必死で笑いをこらえようと
していたが、こらえきれていない。それも悔しかった。

「大丈夫だよ、俺にはお前しかいないから。」

私のことを散々笑っている最中、ドラマとかでしか聞いたことない台詞をさらっと言いのけた。
なんでこの男はそんなことを簡単に言ってしまえるのだろうか。本当に不思議な生物だ。
私が瞬間そう考えたことが分かるはずもなく、赤也はひたすら笑う。


今私たちがいるのは教室だ。周りにはクラスのやつがたくさんいるのは言うまでもない。
当然周りから野次が飛ばされるのは当たり前で。だけれど赤也は恥ずかしげもなく、
逆に調子に乗って周りを煽ろうとしているし。言われたこっちの身にもなってほしい。
私が恥ずかしくてたまらない。そりゃ確かに嬉しい。だけど、嬉しいけれど、今はそれよりも。

「…そんでその子に、なんて言ったわけ?」

私は食事中にもかかわらず、周りの目線も黙認して赤也の胸倉を掴みながらこう言っていた。
私の顔は今真っ赤だ。顔が火照って少し手に汗までかいてしまった。
妬んでいるわけではないけれど、(心の底ではそうなのかもしれないけれど)
そこまで言われたら気になってしまうのが性。悲しい性。
それを聞いて赤也はまた私のことを思い切り笑った。恥ずかしいの比ではなかった。もうどうでもよくなった。


私の心は、いつもこの男に弄ばれる。











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06/04/05〜06/09/28
拍手夢@