カラッと晴れた蒼い空とにらめっこしながらは呟いた。

 「ハァー。今日はテニス日和なのになぁ。」

 青春学園の女子テニス部に所属しているは今日という日をかなり憎んだ。はっきりとは覚えていないが

 今日はテニスコートの整備かなんかでテニス部は休みになった。三度の飯なんかより全然テニスが好き、なにとっては

 苦悩な1日となっていた。雨ならば諦めはつくものの、曇りがちだった最近の天気からは久しく見る澄み渡った

 晴天だったので余計に腹が立つ。今日学校に来た意味はなんだったのだろう。

 成績も中の上と特に頭がいいわけでもなく勉強は嫌いの分野に入るにとってはそう思ってしまう。

 世間一般に言うのかはわからないが所謂テニス馬鹿なのだ。

 はもう一度溜息を付いた。



 「ー!」
 
 誰かが自分を呼ぶ声がした。ぱっと顔を上げたその視界にはその誰かは見当たらなかったのでくるっと顔だけ後ろに向けた。

 「ー!」

 の苗字を呼びながら後ろから追いかけてきたのは桃城武だった。

 彼もまた青学のテニス部で同様の理由で今日は部活はオフだった。の隣に並んで歩き出した。

 「お前今日暇だろ?」

 「…(事実だけど断定されてんのはムカツクな)暇ですが。部活ないからね。」

 「今からストテニ行かねぇか?」

 「ストテニ?」

 10cm弱背の高い彼を見上げては尋ねた。尋ねたが自分の記憶を巡り巡って何処のことを差しているのか

 わかったので前に向き直り「ああ」とだけ言った。

 ストテニ。ストリートテニスと勝手に名づけた所を更に省略化していた。ストテニは桃城がに教えた
 
 場所であって暇があれば行く事も多かった。桃城とは一年生の時はお互いテニス部繋がりで名前を知っている程度で

 接点という接点はなかった。ところが二年生に進級しクラスが一緒になった二人はお互いテニス馬鹿という

 ひょんな事から意気投合していた。



 
 「越前くんと行かなくていいの?」
 
 「あぁ、アイツは委員会。夕方になったらダブルスばっかりだから来ないって。」

 
 ストテニには夕方頃日が暮れるか暮れないか、そんな時間になれば年齢問わず集まってくる。

 テニスコートは一面であるためルールとしてダブルスの1ゲーム交代制と勝手に成り立っていた。

 
 「ハハ。さすが王子。ダブルス性に合わないんだっけ。桃と越前くんのダブルスは酷かったなぁ。今思い出しても、笑える。」

 「あれは越前がだなぁー…まぁいいや。で、行くのか?行かねぇの?」

 
 は吹きだすようにして笑いながら思い出していた。それに桃城は苦笑する。

 
 「ちゃんレンタル料はお高くつくけど?」

 「はぁ?」

 「冗談冗談!もち行くよ!」

 冗談を言いながら結局賛成したは休みとわかっていてテニスの道具を持ってきていなかったので

 着替えたらすぐ行く、と走り去りながら言い残して行った。




 




 * * *






 (ここの階段結構多いんだよなー。)

 はそう思いながらストテニの階段を一段抜かしで駆け上がった。

 段数が上がるに連れてパコーンという軽快な音とコートを走っているようなザッザッという音が徐々に近づいてくる。

 はそれと共に心が高鳴っていた。

 (ラリーの音が聞こえるってことは、誰かとやってんのかな。)

 は持ち前の明るさで「ちゃん登場!」とおどけて出るつもりだった。

 しかしは一番上から三段ばがり下のところで一度立ち止まった。

 「誰だろう、あの子。」

 思うよりも先に言葉が零れていた。が見た先には桃城とこちらに背を向けて打ち合っている誰かがいた。

 は目を凝らした。動くたびにサラサラと靡く髪の毛と小柄で華奢な体付きは女の子と見える。

 だんだんと見えてきたシルエットに見覚えがあった。

 (あれは確か…)
                   
 細い腕からは予想もせぬ速く強い打球。手首のしなやかさと器用さで使い分ける可憐な技の数々。

 不動峰中の橘杏だった。

 彼女とは何度か試合をしたことがある。何度か試合を交えているうちににはない圧倒的な何かを与えていた。

 その何かがはっきりとわからないうちに杏への憧れへと変わっていったのだった。

 その憧れていた彼女が桃と一緒にテニスをしている。

 は自分のテニスの事を忘れ、その場に立ちすくみ、ただ見つめるだけだった。

 複雑だった。凄く凄くわからなかった。だけれどそれは意外にもシンプルすぎていた。

 良い絵。凄く綺麗。率直にそう思った。そんなの想いも他所に混沌としたボールの響はなりやまなかった。

 は一歩退いて一段降りた。何時の間にか自分のポロシャツをギュッと握っていた。

 また一歩ずつ、一段ずつ。の瞳はしっかり二人の姿を見つめながらも確実に体は退いていた。

 やがての足は階段を駆け下りていた。乗ってきた自転車のスタンドを思いっきり蹴り上げ

 ペダルにしっかり足が乗っていないにも関わらずこぎ始めた。足の状態が不安定だったため

 フラフラになりながらも徐々にスピードを上げて行く。早く何処かへ辿り着きたかった。

 


 人通りの多くなるこの時間帯の商店街でさえスピードを落とさなかった。

 道行く人に進行を妨げられながらも、それすら気にする様子も無くどんどん速度を上げていく。

 迷惑そうな目で見られていても気にとめられなかった。

 止まってはダメ。ゆっくり走ったって意味が無い。とにかく全力で走るの。自分に暗示をかけるかのように何度も何度も

 心の中で繰り返した。まるで何かを思い出したくないかのように。


 この坂を越えればもうすぐ家だ。ハンドルをしっかり握り立ち上がって下半身に力をこめる。

 傾き始めた燃え上がるような太陽は雲さえも焦がしていた。

 坂を越えたすぐ後の角を右に曲がる。何故か力加減がわからずに車体を傾けすぎていた。

 すこしヒヤッとした。しかし転びそうになったところを持ち前のバランス感覚と運動神経で

 地面に手をつけて体勢を元に戻す事が出来た。心臓が煮えたぎるように鼓動を打っていた。何もかもリアルに聞こえてくるのだ。

 


 家に着くと自転車をいつものところに乱暴に止めた。あまりの雑さに自転車は耐えきれずにバッタリと倒れた。

 はそれをしっかりと見ていた。見はしていたが小さく舌打ちをして直しはせずに家の鍵を差し込んだ。

 ドアを閉めると色彩のなくなった世界に迷い込んだかのような白黒の景色が飛び込んでくる。それを見た瞬間どっと汗が噴き出してきた。

 微量ながらも額とこめかみに水滴が光る。肩で息をしていた。熱い。体が熱い。

 はテニスバッグをずるずると重い荷物のように引きずって階段に足をかけた。

 可愛くもなくシンプルというより殺風景な自身の部屋に入ると、座り込んだ。まだ鼓動は激しく脈を打ち、

 呼吸は荒い。はその荒い呼吸を整えながら静かに目を閉じた。目蓋の裏で蘇える数分前の記憶。

 秒数を重ねる毎に鮮明になるの見たものはやがて結論を出していた。はうっすらと重すぎる目蓋を開け、

 その結論を直視した。

 桃の、あの顔。

 アイツがあんな風に笑うなんて、初めて知ったよ。 は力なく笑った。

 さっきのあの逃げ出したい感情は嫉妬なんだろうか。嫌味かのように先程の残像が何度もフラッシュバックされる。

 けれど杏を憎むようなそんな感情はどこにもなかった。

 (じゃあ、何なの。この気持ちは。)

 なんとも言えなかった。自分でさえわからなかった。この感情に疑問とそして悔しさを抱きながら唇を噛み締めた。

 










 * * *





 翌日、は普段通りに登校した。学校も特に変わりは無く話が長いことで有名な自身の担任が教壇の前に立って

 話しはじめたところだった。にはその話しも右の耳から左の耳へ抜けていき、窓の外の世界をただ見つめるだけだった。

 昨日の晴天が嘘だったかのようにバケツをひっくり返したというか水道管が破裂したというような、

 とにかく酷い土砂降りでグランウンドの砂はもはや砂の原型を留めていなくて(砂に原型もあるのかわかんないけど)

 川が何本も生み出されるどころではなく池がたくさんできる、むしろ校庭全体が池、みたいな感じだった。

 (今日は筋トレかぁ。)





 いろんな意味を込めて深く深く溜息を付いた。灰色の世界が広がる外ばかり見つめていたので視線を教室に戻すと

 蛍光灯の真っ白い光が刃のように思えた。は目を細め何度も瞬きをした。数秒後にやっと教室全体の状況が掴め、

 耳の中に至る所から聞こえる大きい喋り声と笑い声が聞こえた。そこでHRが終わったことを初めて知る。

 の前には授業中にうるさい永原くんではなく、自身の親友が心配そうにを覗きあげていた。そして視線をずらした。

 「、さ。」

 己の名前から話し始めた親友に対しては再び窓の外を見ながら頬杖をつき、ふ抜けた声で「ん〜?」と返事をした。

 視線をもう一度に移し、暫く考えた。考えていた事の続きを喋ろうかと思ったが

 自分の目の前にいるすっかり気の抜けた親友の様子を伺ってやっぱりいいや、と内容切り替えた。

 「今日大変だね。」

 「…何が?」

 は遅れた返事をする。未だに視界の悪すぎる外の遠くを見ていた。

 やっぱ聞いてなかったかと言わんばかりに溜息を付いた。

 「何がって…委員会だよ。あんた文化祭の実行委員と図書委員掛け持ちでしょ?」

 「…そーだっけ?」

 「ホント何も聞いてなかったんだね。」
 
 「…。」

 「いい?一回しか言わないよ?今日実行委員は文化祭のスケジュール決めのため第二集会室、

 図書委員は新刊の整理。重なってる場合は実行委員優先。けど図書委員はノルマがあるらしいから。」

 「…ふーん…ってウソォ!?」

 



 何処か哀愁漂っていたあの綺麗な表情とは打って変わり、驚き、激しくだるそうな顔つきになった。

 もう一度を見つめ直しさっきより深く長い溜息をついた。

 「あんたさぁ、桃城となんかあったわけ?」

 「…はぁ!?」

 突然の大きい声と桃城という人名にかなりギョッとした。親友なのに何故だか視線が合わせられなかった。

 親友はそういうとこには鈍感なので気付かれなかったがはかなり挙動不審になっている。 
 
 「あんたがテンション低いとこっちも狂うの!わかる?あんたってポジションはお調子者でいなきゃダメなの!

 あたしはそういうあんたの方が全然好きだよ?何があってもお調子者精神でへらへら笑うことは忘れなかったくせに

 何なの?今日は!あたしに喧嘩売ってるつもり?」

 「は、はぁ。…す、スイマセンでした。」

 は怒られる理由がわけのわからないまま文句をたらたらと言われ、ついには喧嘩まで売られてしまった。

 久々に聞いた親友のマシンガントークに圧倒されかなりビビり、目を真ん丸くしていた。

 「あんたらさぁ、どういうつもり?あんなに仲良くて恋人同士じゃないってなんなの?そういうとこ喧嘩売ってるようにしか

 見えないのよ。あたし先週までずっと付き合ってるものだと思ってたんだけど!」

 声のトーンを落とすこと無いまま喋ってしまった自分の親友は周りの視線を集めている事に気付かなかった。

 何故だかわからなかったけど、はたった今昨日のあの感情の答えがわかった気がした。

 そして親友から視線をずらし、遠くを見た。は少し笑って首を横に振った。

 親友は何か言いたげな口をパクパクさせながらも声にはならなかった。

 は椅子に凭れ掛かり天井を見た。そう、この気持ちは、









      










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話飛び飛びでスミマセン…;  
0325 管理人/朝比奈