E m p t y B o x 0 3
仲良くなりたいんだか、なりたくないんだが、よくわからないあのグループはまたお昼になると
がちゃがちゃ机を移動させていて、その中の一人と目が合った気がした私はなんとなく目を逸らした。
物悲しげな目でこちらをみてくる彼女には少しの恐怖さえ覚えてしまう。
出来ればこういう陰な子たちとは関わりたくなかったのに、と舌打ちをしてみるが、教室のど真ん中で
品のないことを騒ぎ立てる陽な子たちに関わったとしても同じ気持ちを持つだろうと予測して
そのまま教室を出た。
昨日の約束を忘れているだろうと思っていた私はどこか一人座れる場所は無いかと焦りもせずに
ちょっと不審な目で見られながらも気にすることはなく、ただ探していた。
この際お昼が食べられなくなってもいい。午後の授業は二コマしかないから、それくらいなら
我慢できる。あの息苦しい空気の中にいるよりも、お昼を食べられないほうがよっぽどマシだ。
そんなことを考えてたとき、食堂に向かうとばったり会ったのだった。
「、あれが不二君の弟だよ!」
去年クラスが一緒で割りと早くに馬が合ったとは新しいクラスに紛れてしまう前に、と思って
昨日も昼食の約束をしていた。結局私は一人で食べる羽目になった(一人ではないけれど同じようなもんだ)
が事情を聞くと忘れていたわけではなかったらしい。どうやら一昨日の雨に打たれて風邪を拗らせてしまったらしい。
どうもクラスが違うと状況が把握しずらくて面倒だ。そして今日になって私が何組だったかわからないことに
気付き、携帯を持っていない私に連絡手段が思いつかなかったらしい。
結局も昨日休んだせいでクラスはもういくつかのグループに分かれていたので、
わざわざ自分から声かけて入れてもらうのもなんだか気が引けちゃうから、外に出てきたのだという。
本当に、学食というものがあってよかった。
私はが何組なのかはしっかり覚えていたが、もしかして自分より気のあう子がいたのかも、とネガティブな
ことを考え迷惑だと思って行かなかった。それを少しだけ話すとはそんなことあるわけない、と
軽く明るく笑った。
今まで一緒にいて、休みの日もかなりの頻度で遊んでいたし、いろんなことを相談してきただったから、
私が心の中で安心したのは言うまでも無い。そして今の話題は目の前を通り過ぎた男の子に向けられた。
「まぁ私は兄のほうがタイプだけどね。」
学食のそこそこおいしいカツカレーをつつきながら小声でそんなことを言う。
性格に反して意外とミーハーなは男の子情報に関しては結構詳しい。まぁ私が知らなさ過ぎる、
というのもあるのだけれど、それでも今年の新入生チェックはもう入学式の日にやり終えたらしい。
「…あ、いやあれが不二裕太で、えーと、私は周助のほうがタイプです。」
するとは気付いたように、言葉を言い直した。
「?」
「だって、ほら、は」
「あー別に気にしてないよ、もう。そんな、が気を使うことじゃないのに。」
どうやら私を気遣ってくれたらしい。
もう慣れてしまったから、私自信気にも留めていないのにこういうの優しさが、私は大好きだ。
本当にがいてくれてよかったとおもう。でなければ今私はここにいないかもしれない。
私は血縁という、姉妹という物凄く大きなコンプレックスを持っている。それはもう変えることの出来ない事実で
変えられないだけに私はより劣等感を覚えたのだ。それはこの先も変えられない。
いつもそうだった。
何をさせても完璧な姉に対して、私は人並みのことすら出来ないときがある。
小さな頃は、私も大きくなれば姉のようになれるんだと確信していたから、ずっと尊敬していた。
それが私と姉は違うと感じたのは小学校の高学年になってからだった。記憶がはっきり残っているからかもしれない。
姉ができることは、私には出来ない。姉は出来るのに、私には出来ない。
外から言われたのだ。外から言われたものも全て私の耳に届いた。
自分でわかっていたものを、必死に表に出すまいとしていたものを、えぐられる。
それは自覚するよりももっと残酷で、私を傷つけた。思春期が訪れた私には、耐えられなかった。
「あなたのお姉さんはなんでも出来るのね」
「の妹なのに」
「可哀想ね、お姉さんに才能全部持っていかれたんじゃないかしら。」
「あー、あのちゃんの妹ね」
「お姉さんは出来るのに、あなたには出来ないの?」
全く同感だった。それと同時に悔しい。本当に姉に全ての才能の部分を取られたんじゃないかとか思った。
思い返してみれば、他人に言われたこと全てが、苦しいものだった。
何も出来ない自分が悔しくて、比べられることが苦しくて、毎日泣いた日もあった。
それはやっぱり私の気持ちがはっきりしたからこそ、気にし始めたのだ。そして同時に私の気持ちは届かない。
「俺ね、の姉ちゃんが好きなの。ちゃんが好きなの。」
そう、私の気持ちは届かないのだ。言うことすら、許されない。暗闇に置き去りにされた気分だった。
光は周りと同じ、姉の方へ行く。完全に閉められてしまった。
言われる前に、全部吐き出してしまえばよかったと、何度も後悔した。結果は同じでも
ショックは少ないかもしれない。私は声も気持ちも、押し殺すことはないのだ。それが許されない。
「には、でいいところがあるんだよ。事実、友達になってよかったし。」
は私の新たな光だった。一番の山場はがいてくれたからこそ、乗り越えられた。そう思っている。
その瞬間、私の中で何かが切れた。始まりに戻った。は、私を私でみてくれる。名前で呼んでくれる。
どこに行っても、何をしても比べられてしまうから、もう気に留めることはやめよう。
いちいち相手にしてたら、私は何のために生きているのかわからなくなる。
私は、私のために生きてみたい。
そして私は部活をやめて、近くのテニススクールに通うことにした。何も学校じゃなくたってテニスはやっていける。
テニスは気を紛らすための一つの趣味だったから、それでもよかった。
「…ごめん」
「いいって、別に。だけが理解してくれるから。それだけで充分」
下向きな空気が流れる。私のせいでそうなるのは嫌だった。そう思って少し俯いた視線の先に
カツカレーのカツが二切れほど残っている皿を見たので私はにそれ頂戴、と言わんばかりに口を開けた。
は少し笑って私の口の中に放り込む。
「そういえば、さ。」
「うん、何?」
「不二裕太も、と似てるんだと思うよ。」
「何で?」
「ほら、周助のほうが天才、とか呼ばれてるでしょ。…その、だから」
「境遇が似てる?」
「うん、そんなん」
または気にしながらも会話を進める。私を気遣ってくれるのなんて、一人だけだ。
私は数秒考えて、「そうかもしれないね」と同意した。だからと言って何をするでもないだろうけど
同じ境遇の仲間がいることは、心強いかもしれない。
ぼんやりと食堂全体を見つめた。無秩序なこの空間に何故か痛みを覚える。
どこを見ても人だ。たくさんの人、他人がいるのに、自然と私の目は一つを捉えている。
楽しそうにお喋りをしながら、笑いあっている。喋っていることは聞こえない。
人は、カオスに一番近いんじゃないかと思う。次に何をしでかすかなんて、自分でさえわからない。
同じ状況で、同じアルゴリズムで行ったとしても、だ。それが人なんだと実感する。
実際、今の私もそうだった。
開き直ったはずなのに、叶わないことを知っているのに、何をしても何を考えても見つめているのはいつも
ただ一人だった。そこにいるのは英二だった。
なんで、諦めきれないんだろう。なんで想いは強くなるんだろう。なんで、どうして。
私たちは食べ終わった皿をカウンターまで返しに行き、ちょうどおばちゃんがいたので
「ごちそうさまでした」と言ってから食堂を出た。まだ少し時間があったので廊下をぶらぶら歩きながら
くだらないことを話して笑いあった。そうしていたらちょうど予鈴が鳴った。
すぐまたあとで会えるのに私は時間を惜しんで、と別れた。
教室に入る前に、私はドアのところで踏みとどまった。
とても不安だった。見えない何かと戦ってるみたいで、何も見えないから不安だった。
このまま私の気持ちが、大きくなったらどうしよう。そしたらどうやって閉じ込めればいいんだろう?
もっと大きな箱を用意しなきゃならないね。それまでに、見つかるのかな。
スカートを少し握りながら、私は教室の中心にいる彼を見つめていた。
←02 TOP →04
倫理の復習をしていて、たまたまカオスとアルゴリズムがでてきたので(笑)
話が進まねぇ…!友達でしゃばりますよ。