いつまで自分を保っていられるかな。もう遅いのかな。こんなにも短い時間なのに。



第二章 未 熟 思 考 





私は足を止めた。あの廃校から随分走ったはずだ。ふっと辺りを見回してみたが何処であるかわかるはずも無く、
取り囲むのは私を落ちつかせてくれない不気味な木々だけだった。世間では大体の人が寝床についていて、明日に
備えている時間帯だ。私にも、明日がある。そういうことも考えていなかったあの頃は随分遠くに感じる。
明日は、来るかな。あったらいい。みんなと一緒に、明日を過ごしたい。
小さな希望をしっかりと離さないように、せめて端っこだけでも掴んでいたかった。


そういえばまだ武器の確認をしていない。支給されたデイバッグのチャックをゆっくりと横に流す。

震える。

バッグの中はまるで異界のようで手を入れることがとても怖い。本当は誰も殺したくないからだ。
よく知った顔だし、敵といったって好敵手であるはずなんだ。信じたい。みんなを信じたい。
でもこの状況じゃ誰でも狂人になりえる可能性がゼロではないのかもしれない。氷帝の皆も、そして私も。
念のためだ。死んでからでは後悔すらできない。私は一番弱いと思われているだろうから、余計に気をつけなければ。

頭の中は繋ぎ合わない線で、ごちゃごちゃだ。そこに秩序なんてあったもんじゃない。
矛盾だらけのこの頭はいろいろと考えているけれど、結局答えなんか見つからない。







支給された武器に触れた瞬間。とてつもない恐怖感に襲われる。よりによって銃であった。
(刀とかじゃないだけマシか…)
手にとった銃はずっしりと重く、己を主張するかのように銀色にきらめいていた。

「…スミス、アンド…なんて読むんだコレ…うぇっそん?誰それ?」

銃とかそういうものに関して全く関心の無かった私は、とにかく使い方がわからない。だってこんなことになるとは
思わなかったから。なるべくは使いたくなどない。だけれども、私以外のもう一人の女の子は…
って子は前回の優勝者だ。その子に会ってしまったときは。

背中に悪寒が走る。自分の肩に触れて静かに確かめた。表すことのできない恐怖だった。




ズドンッ

「ひゃあ!」

ずしりと来る鈍い音と共にその銃が何十キロも重くなったかのように体の髄まで来るこの衝撃。
急に大きく手が震えだした。




「なんなのよ、コレ…!」




自分の目の前には小さく綺麗に貫通した穴があった。撃ってしまった対象物が例え気であってもこんなにも絶望感を感じたこと
はない。ついには腰が抜け、立てなくなってしまった。覚悟はできている、つもりだったのに。




突然、何もわからなくなった。全てが消えた感覚だった。





「あ、やっぱり先輩だ。」

恐怖感は、時に感覚を麻痺させる。半端な覚悟はさらに鈍らせる。
私の指は自然とリボルバーを引き、引き金に手をかけていた。何も聞こえない。誰も知らない。
ただ、私の目に映る全ては敵だった。





そう、それが大切な仲間であっても。





「探してました。あっちで皆待ってます。」

ゆっくりと、強く握る。脈は乱れる。私の情けない腰は未だに立てないままでいたが、腕は勝手に上がっていく。
血が騒ぐ。私の中で、何かが変わる。変わってしまう。殺らなければ、殺られてしまう。



、早く撃つのよ。あんたの本能がそう囁いているんだから。あんたは何をしにきた?ただ殺されにきたわけじゃないでしょう?
じゃあ生き残るためには何をすべき?わかっているんでしょう?



















早く引き金を引いて。そう、




















「!?…先輩!ちょっ…!」




それが大切な仲間であっても。




風が止む。鳥たちが飛び立つ。
放った弾丸は標的に素直に飛んでいく。見事なまでにそれは標的を美しく貫いた。叫ぶ余裕すら与えない。
左胸に風穴を許した仲間の体はスローモーションのようにゆっくりと倒れていく。
手に電気が走るようにビリビリと軋んでいた。目の前が歪んだ。



私にそれがわかったのは、ずっと後だった。
色彩のなくなった私の世界に、風のささやきが全てを教えてくれた。






真っ先に狂った私は、人を。仲間を殺していた。










「い…いやああぁぁぁあぁぁ!」


木々は嘲笑っているかのようだった。




死亡:鳳 長太郎  

残り:53人