雨   を   待   ち   な   が   ら  





自分の体から魂が抜けてガタンと横に倒れたかと思うと、目が覚めた。
私の腕は机からはみ出している。教卓の真上あたりにかかっている時計は
ぼやけてはっきりと見えない。どんな夢見ていたんだっけ、と思い出しながら
少し痛かった肘を摩り携帯をカバンから取り出そうとする。

先ほど目が覚めた瞬間をを誰にも見られていないか一応周りを確認し、
携帯の外側についている時計に目をやった。六時三十八分。誰かが見ているはずがなかった。
下校時刻は八分も過ぎている。部活をやっている人であってもそろそろ終わる時間だ。
冬に比べて随分日が延びたんだなぁと気がついたように心で想い、腕を高く上げて伸びをする。

何で寝てたんだろう、と思ったりもしたが開き直って今を見つめる。
もう過去のことだ。どうでもいい。
常にポジティブシンキングな私はそう思って自動販売機のある踊り場まで足を運んだ。

自慢にならないが今週は立て続けにカラオケばかり行ってしまったのでお札こそなかったが、
細かい小銭ならたくさんある。銅のせいで赤光する私の財布から一つだけ違う輝き方をする
コインに手を伸ばした。そいつを自販機に入れると赤く「500」と表示される。

私は烏龍茶のボタンを押した。先日MDプレーヤーが壊れてしまったせいで私の大好きな音楽を
外に持ち込むことができなくなってしまった。壊れたことを境に今時MDというのもどうかと思い始め
いろんなMP3や他の音楽機器を探し回っていたところテレビCMの宣伝にまんまと乗せられてしまい
ついつい烏龍茶に手が伸びるのだ。当たるわけがないと分かっていながらも私はポイントを
ため続けて家のパソコンの周りはピンク色のシールで覆われた数字がたくさん貼られている。

お釣りのバーを引こうとして手が止まった。私はもう一度目を飲み物に向け、青いラベルの
スポーツドリンクを見つめた。5秒ほど間をおいて結局私はそれも購入した。
私はようやくお釣りのバーを引き、出てきたお金を10円ばかりの財布に無造作に入れると
カバンを持って昇降口への階段を下りた。











部活が終わったとき既に下校時刻を二十分も過ぎていた。もう七時近い。
それなのに昇降口のベンチには見慣れた後ろ姿の奴が座っていた。

「…?」
「あ、お疲れ様。はい、どーぞ。」

俺を見るなりその見慣れた奴、は俺が一番気に入っているスポーツドリンクをこっちへ投げてよこした。
そう言ったままは烏龍茶を細い首へと流す。流れていく度上下に動く喉元がなんともいやらしくて
しばらく見つめてしまった。

「あ、もしかして」
「待っててくれた、とか自惚れないでよ。たまたま寝ちゃっただけだから。」

俺が言葉を言い切る前ににその先を見透かされ、遮られた。が何故この時間にいるのか、
その言葉だけじゃよくわからなかったが、俺が知る限りこいつは至って素直じゃない。
寝てたのは事実なんだろうけど、なんとなく予想がついた。俺はの向かいのベンチに疲れきった体で座った。

は相変わらず窓越しに外を見ながら時々烏龍茶を口へ運ぶ。
その姿はなんだか物語に出てくる幽閉されたお姫様みたいで瞳を下にずらすだけで
凄く儚げ、何かを待っているかのようだ。
まぁその外見は制服に烏龍茶のただの学生だから、俺の想像というのは笑えてくるわけだが。

「帰らねぇの?」

俺の声にパッと目をこちらに戻したが、その問いには答えず変わりに的外れな問いが戻ってきた。

「赤也、傘持ってる?」
「傘ぁ?」

降り始めたのかと思って外を見てみるが、水分一つない。雨なんか降っていなかった。
意味がわからなかったので素直にその表情でに向けると、は無表情で携帯を見せてきた。

「あとね、5分くらいで雨が降り始める予報が出てんの。で、私は傘を持ってきてないの。」

急に暗くなり始めた空は事実を物語っていて、その予報もどうやら嘘ではないらしい。
真っ直ぐな言葉を持っていないは何をしたいのかよくわからない。だけれどと出会って
随分時間は経っている。の少ない要求さえ分かるようになるくらいに。

「…折りたたみなら一個だけ持ってる。」
「そう。」
「ねぇ、…これは俺の自惚れで考えていいんですか?」

は「勝手にして」と言いながら極端にストラップの少ない携帯を制服のポケットに収納した。
隠そうとしても、どうしてもにやけてしまう。それなら隠す意味は全く無いわけだから、
俺は全面に笑顔でいることにした。は再び烏龍茶を口にした。







雨を待ちながら






















某音楽機器の宣伝にまんまと乗せられて烏龍茶を買い込んでいるのはウチの家族です。
06/05/25