ドライな彼女に憂鬱






 12月20日と聞いて、急に思い出した冬の大イベントに彼女をデートに誘うのは当たり前かなと思った。
そう考えたら一人で勝手に気持ちが高ぶってきて、今は部活中だから明日にでも言おうかと思ったんだけど、
休憩中にちょうどテニスコートの前を通り掛かった彼女を見たら、叫んででも言いたくなるのは
当たり前だろうって思って


声を掛けたんです。













「……」
「……」
「……え」
「だから、いいよわざわざそんなの」
「そんなのって」
「あたしイベントとか好きじゃないし。部活ないならたまには一人の時間を満喫したらいいんじゃない?」
「え、ちょっとそれ本気で言ってんのさん」
「当たり前でしょ。じゃあ寒いからあたし帰るわ。部活頑張ってねー」




唖然とする俺を差し置いては表情一つ変えず、けろっとした態度で俺に手を振ると、
そのまま上着を翻して帰ってしまった。一人浮かれた先ほどまでの高揚感はどこへやら、
冷たい北風とテニスボールの快活な音が、俺の惨めな姿を見事に演出した。









部活中は勿論頭を切り替えてテニスだけに集中したが、ちょっと気を緩めると頭の中で
疑問が疑問を追いかけ、混沌とし、焦りと不安と遣る瀬無さを生む。

そう、まるで、フラれたかのような衝撃。

……いやいやフラれてはいないぞ。ちょっと断られただけだ。たまたま都合がつかなかったんだよきっと。
いやでも予定があるとは言ってなかったんだよな。あいつは普段からドライな奴なんだ。
付き合いも安定してきて初期のころの初々しさというものはとっくに忘れ、元からの性格に拍車がかかっただけだ。
今までにも似たような経験はある。今回は一人の時間が欲しい、とかそんなんだっけ?
一人の……時間……?一人で考えたいとかそういうことか?なんだよそれ別れる前の常套句じゃないか。
いやそれは言ってない!そんなことは言ってない!
じゃあなんだ?なりの気遣いってことか?でもそれは違う。そもそもは気遣いを押し付けて
自己解決するような奴ではないはずだ。

じゃあやっぱりあれか。気遣いではなく自分の気持ちとして断られたってわけか。
……つまり拒否か?拒否なのか!?


混乱と動揺が錯綜して、記憶も曖昧になった。ただ不安な言葉だけが誇張されて残っている。



「幸村」
「どうした?」
「俺、うざがられてんのかな」
「そうかもね」
「……」



わかってはいたが、幸村の言葉には、ふふっと笑いながらも容赦がなかった。
そして今の俺にはそれを流せるだけの強いメンタルは持ち合わせていなかった。
だらりとフェンスに手をかける。日が落ち、ナイター仕様になったテニスコートがやけに明るかった。







帰り道、いつもの通りが違って見えた。あ、この電飾のせいか。今年のコンセプトは緑か。去年は青だったな。
あれ、黄色だったっけ。白だったような気もしてきたな。どっちだ。どっちでもいいか。

ふらふらぐだぐだ。パワーアンクルをつけたままかと感じるくらい足取りが重かった。
一応確認したが勿論そんなものはついていない。

街の陽気な音楽がさらに苛立たせる。冷え込んできた空気が頬を掠めて刺すような冷たさが残る。
俺たちは周囲も認める良きカップルのはずだぞ。それなのにクリスマスデートの誘いを断るだと?
クリスマスなんかは女が好きなイベントなんじゃないのか?ていうかクリスマスは恋人たちの日なんだろ?
嘘ならどっかの歌詞訴えるぞ!


いくら考えても人の心は見えてこない。傍から見ても色んな勝手な解釈が出てくるから、
余計に不安になる。そこでうじうじと悩んでもの気持ちがわかるはずがない。
わからないことはわからないし、こんな時間は勿体無い。認めたくないが避けられているのは確かなんだ。
それをそのままにしたら何もわからないうちに靄に包まれ結局は消えてしまうんだろう。そんな理不尽なことはイヤだ。
俺はさっきまでの気持ちをさっと切り替えた。実行あるのみ、だ。

そう考えてからは行動が早い。俺は鞄から携帯を取り出して耳に押し当てた。少し緊張してたのは言うまでも無い。


一回、二回、三回。生唾をごくりと飲み込んでいた。ぴりっと再び緊張が走る。
四回目コールの途中で機械的なぷつりという音が聞こえ、それから少し低音の聞き慣れた声が聞こえた。



「あのさ」
「うん」
「単刀直入に言うけど……お前俺になんか隠してねえ?」
「……」
「……」
「ない」
「嘘つけ!なんだよ今の間!」
「なんでもない!用事それだけ?なら切るよ」
「待てよ!ないわけないだろ!」
「ないったらない!あたしこれから塾だから!じゃあね!」



一方的なのはいつものことだが、珍しく声色が違っていたのは聞き逃していない。
それでもの声に代わって再び電子音が流れ、ツーツーという音が終了を告げると空気は冷たいはずなのに、
何故か生暖かく感じ情けないほどに立ち尽くしてしまった。紺碧の空の金星だけが燦然と輝いていた。乾いた笑いがこみ上げてくる。
でも納得出来ない。出来ないから諦めるわけにはいかない。こんなんじゃ落ち込まないぞ。
俺は寒空に拳を向けて心の中でオーとか言いながら気合を入れなおした。









 は真面目な奴だ。何かの委員や係というわけではないが、遅刻をしたくないからという理由で
いつでも始業の30分前にはもう学校に着いている。特に何をするでもなく本を読んでいるらしい。
朝練がなくて本当はもう少し寝ていたかったけど、誰が聞いているかわからないマンモス校の休み時間に
面と向かって話に行く勇気はなかったし、放課後だと昨日の部活のときのようにあっさり帰られてしまうに違いない。
だから朝。朝しかない。誰もいないし、逃げられもしない。我ながら完璧、と思いながら学校に向かっている。

しんとして自分の足音しか聞こえない廊下を通り、教室へ向かう。始業ジャスト20分前。
後ろのドアからこっそり確認すると一人だけ既に座っており、その姿は紛れも無く本人だった。
本に集中してか、俺の存在にまだ気付いていないらしい。今日聞き出せなかったら終わり。なんとなくそう感じて
決心してやってきた。よし、ともう一度それを確かめがらりとドアを開ける。いざ、出陣。

いつもまだ誰もやってこない時間なんだろう、はドアの開く音に吃驚、さらにそれが俺だったのが
予想の外の外の外のことだったらしく、二度吃驚。目を見張っている。この状態で逃げるとは考えてなかったが
昨日からののおかしな態度。別人のような行動すらも取りかねない。そう思って手首をがっちり掴んでおいた。



「な、何……なんでこんな時間にいるの」
「気になるからに決まってんだろ」
「だから何でも」
「なくないだろ。」



今までに無く、どきどきしていた。余裕は勿論なかった。ただの目だけを真っ直ぐ見る。それしか出来なかった。



「俺、わかんないんだよ。……もう俺のこと好きじゃなくなったの?」
「違っ!そんなことない!」
「じゃあ何だよ……何かあるなら言ってくれよ。」
「……」
「…俺ばっか、馬鹿みてーじゃん。でも、不安になるんだよ。」



は俺に腕を掴まれたまま視線を逸らす。前髪で目が見えなくなった。眉間に皺が寄る。
手に力が入る。外から来たばかりということもあり俺の手は冷たかったがの躰は異様に熱かった。



「……笑わない?」
「え?」
「馬鹿みたいなのはあたしなの。……あのさ、引かないでね。」
「お、おう」
「あたし……」
「……」
「もう理性抑えられそうに、なくて、怖いの」
「は」



俺自身予想の外の外の外の答えで全く頭の回転が追いつかず呆けてしまった。
逸らしたの横顔は何かが切れたように、紅葉を散らす。みるみるうちに耳まで真っ赤になっている。



「だからねっ……!クリスマスとかの雰囲気に乗せられちゃったり……するかもしれない、じゃない……!」
「え、ちょ、ちょっと待って」
「女の台詞じゃないってわかってるわよ……ホントになんていうかね……!」




……何だよ、この可愛い生物は……!
俺はかくんと膝が沈んだ。のこの表情だけで十分わかった。俺の不安はただの杞憂に過ぎなかったのだ。
あれだけ騒いでむしゃくしゃしていたのはどこへやら、心の中の余裕が広がって安堵が蔓延る。
それを凌ぐ勢いで目の前にいるこの可愛い生物をめちゃくちゃにしてみたいと思った。
は火照った顔を必死に隠そうとしてさらに目を背ける。俺はいても立ってもいられない。
本当に朝来てよかったと感じた。掴んでいた手首を強引にこちらへ引き、抱き寄せる。肩に顔を埋める。



「ちょ、ちょっと!まじやめて!」
「俺さーほんっと不安だったんだよね。」
「何よ」
「今もがちゃんと言葉に出してくれなきゃまだわかんない」
「……っ」
「俺のこと好き?」
「……うん」
「言葉で言ってくれなきゃわかんないなー」



朝の爽やかな空気に似合わないことも、のこんな顔も新鮮で、俺は満たされていた。
頬から頬に、熱が伝わる。心音がばっちり伝わってますよ、さん。
俺は手を肩に持っていき、目が見合えるくらいに少しだけ躰を離した。
俺は今どんな表情してるだろうか。きっと最高に意地悪い顔をしてるんだろうな。



「あーもう……!好きっ……だよ!」



制服越しの体温がもどかしかった。本当に大好きだと思った。もう抵抗しようとしない彼女を
もう一度精一杯抱きしめる。これもある意味クリスマスマジックか。クリスマス最高!

彼女はドライなんかじゃない。













ツンデレ

ドライな彼女に憂鬱




















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とある少女マンガのツンデレヒロインに触発されますた(笑)
(08/1226)