白い吐息が口元から洩れる。冬は溜息が簡単にばれるからイヤになっちゃうわね。











Little Christmas











 セーラー服は寒いんです。ひらひらスカート足元は冷たいし、すかすかのセパレートでお腹は冷え、
割りに広く開いている首元はマフラーを巻いても風がすーすー入り込む。
私は耐えられなくてセーターは勿論、長袖の下着(つまりババシャツ)を着込んでいた。
これだけ防寒しているのに臓物まで震えるような寒さに襲われるのだから、今日は相当寒い。
雪が降り始める直前のような、そんな深々とした空気が漂っていた。


明日こそはコートを着てこよう、そう決めたのだけれど横のドアから真っ先に出てきた彼の顔を
見たその瞬間、寒さもコートのこともすっかり忘れてしまったのだった。



「ごめんなー。寒かったっしょ」
「大丈夫。ホットレモンティーで随分温かくなったから。」
「そっか。でも手袋しないからいつも手だけは冷たいんだよね」


そう言うと彼はマメだらけの手で私の右手を取った。運動後の余熱みたいなものだろうか、
ほかほかしているという表現がとても似合う。帰ろうかという一声と共にそのまま指を絡ませ、
私たちは学校を後にした。これがあるから手袋をしないんです、という事は内緒だ。





12月も半ば、ハロウィンの後すぐにも始まったクリスマスの装飾はさらに増え、
日も落ちたことでイルミネーションが次々と点灯している。紅黄様々な色をつけていた木も
すっかり寂しくなっていたけれど、今では冬の夜が一番明るい季節なんじゃないだろうかと
感じるくらいに機械的な色が街を彩っている。電飾が派手で有名なお宅は今年も気合が入っているようで
トナカイのオブジェが去年より二つほど増えているようだった。

紺碧の空にライトブルーの光が美しい。クリスマスツリーはもう三年ほど前から倉庫に眠っている、
そんな家に今から帰るのかと思うとちょっぴり羨ましいような物寂しいような気持ちになった。
特にクリスマスだからといって浮かれたりワクワクしたりするような性分ではなかったけれど
やはり街全体の飾りや雰囲気に飲み込まれ、多少なりともそわそわした気でいたのかもしれない。
それなら彼の珍しく見せた歯切れの悪さも納得がいく。



「あの、さ」
「なに?」
「クリスマス、なんだけどね」
「うん」
「両方とも部活、入っちゃったんだよね」



わかりきった事だった。全国大会に行くようなチームが、日本では祝日でもない
クリスマスごときで練習が中止になるはずがない。
それでもやはり私はどこかで期待していたのだろう、本人の口からそれを言われた時大きく落胆したのが
自分でもわかってしまった。なんて、情けない。



「大丈夫。そうだと思って私友達と遊ぶ予定だったから。」
「そっか。」
「なんか逆に気を遣わせちゃったみたいでごめんね?」
「ううん。俺のほうこそごめんな。あ、なんか欲しいものある?お小遣いの範囲でなら」
「いいっていいって!私そんなにクリスマスとか意識してないからさ!ね?」



勿論友達と遊ぶ予定なんかなかった。でも彼に気にするように思ってほしくはなかった。
部活と私なんて対比物にすらならないだろうけど、そうやって天秤に乗せることこそが愚の骨頂なのだ。
そして私自身は仮に比べたとしても部活を取って欲しかった。そこにちょっと寂しいという感情が入る
余地などありはしないのだが、それでも矛盾した気持ちを持つのは仕方なかった。外には出さない。
だからそれくらいは許してほしい。上手く感情を誤魔化せていただろうか。
私は話題を即座に変え、その後、いつも通りのくだらない話で駅までの道のりを過ごした。

反対方向の電車だから此処でお別れだ。私はじゃあまた明日ね、と笑って手を振った。
英二も同じように笑って手を振ったが、その後に付け足された本当ごめんな、という言葉が
私の寂しさを抉ったのは嘘ではない。英二の乗った電車の方が先に発車した。私はやっと溜息をつけた。






 @ @ @ 






 去年から比べるとどうも今年は暖かいらしく、クリスマス当日の今日は雪が降りそうにはなかった。
あれから本当に友達と遊ぶ予定でも立てようかと考えたが、なんだかそれすら面倒臭くて結局予定は作らなかった。
特にすることもなく、布団でごろごろ。新着メールはいやにきらきらした絵文字を使ったメルマガのみ。
さすがに覚醒してきたので起き上がり布団から出ると、もう昼を過ぎていた。
しかし、何も思いつかない。私は休日の過ごし方を忘れていた。普段私は何をしているんだろう。
ぐちゃぐちゃの髪の毛のまま座り、呆ける。
それからは普段やりもしないようなことをとりあえずやってみた。部屋の掃除だとか、
弟と一緒にゲームとか、冬休みの宿題を半分まで終わらせるとか、とにかくいろいろ。

それはそれなりに楽しくはあったけれど、胸にぽっかり空いたこの気持ちを満たしてはくれなかった。
それからの時間というもの、私は断片的な記憶でしか覚えてないほど虚ろに過ごしていた。



仕事の帰りの遅い父を抜き、家族でちょっと豪華なクリスマスディナーを食べ終えると、
もうサンタさんという歳でもないので、母から直接プレゼントを貰った。
早々とツリーの描かれた包装紙を破き中身を出す弟を見ていた。どうやらまたテレビゲームを
買ってもらったらしく、喜び、さっそくゲーム機をがたがたと接続してそそくさとやり始めた。
きらきら輝く弟の目を見ながら私と母は微笑んだ。しかし私はその場で開ける気にもならず
ありがとう、と一言だけ言って自分の部屋に戻った。すっかり冷え込んでいた部屋に連られてか
私は急に思い出したように寂しくなった。
片思いなわけではないし、これから会えなくなるわけでもない。それなのにただの25日に
どうしてこんなにも切なくなるんだろう。私はブラウン管の中ではしゃぐタレント達を恨めしく思った。

涙が出そうになるのを顔を顰めてぐっと堪える。ただ、会いたい。それだけだ。




ちょうど、その時だった。聴きなれたメロディがしんとした部屋中に響き渡る。青いランプがバイブに合わせて点灯する。

着信だ。しかも、この音楽は――



「はい」
「今外出てこれる?」



私は返事もせず、確認もせず、薄着だったのも忘れ、咄嗟に階段を駆け下り玄関から飛び出した。
どこの家も今日は張り切って飾りつけをしていたから、電飾で明るい。門の前にはにっこり笑う英二が立っていた。
普段ならこんなことしないけど、今日くらいなら許される。そう思って彼の顔を見るなり抱きついた。



「遅くなったけど、メリークリスマス!」


何よりも、君のその一言が嬉しい。












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ショートで簡潔にというテーマでやりました。
ガラスの乙女心は私の身が持たん(笑)
遅くなりましたがメリークリスマス!
(08/1226)