時として、雪の如く。









「おい」
「何すか」
「計画立てようぜ」
「何の」
「クリスマス。」




 学食で親友のさっちゃんと今日見た夢だとか、今週のジャンプだとか、そういう他愛も無い話を
していると、赤也は購買から戻ってくるなりこう言ってきた。私は今朝コンビにで買ってきた
アップルパンを頬張ったところだったので、よく咀嚼して飲み込んでから答えた。



「たまには良い話題を振るじゃないですか」



赤也は一言「だろ?」と言うと後ろの空いている椅子を回したのだが、さっちゃんが気を利かせてくれて
手でどうぞ、とジェスチャーしながら無言で赤也に椅子を空けた。


「お、サンキュー!山村サン」
「いいえ、私もクリスマスの予定立てなきゃならんのでね。」


山村サンことさっちゃんはそう言うと手をひらりと翻し学食から姿を消した。
何事にも淡白でドライなさっちゃんからクリスマス、しかも予定を立てるなんて言葉が出てくるとは
思ってもみなかったので何をするのか、何を考えているのかと気になり、今すぐ追いかけてでも
聞き出したいような気もしたが、私たち自身の予定もそろそろ考えておきたいところだったので
後回しにした。あとで絶対聞こう。私はアップルパンの二口目を口に押し込む。



「赤也、部活は?」
「……ないと思う?」
「ないわけないでしょ。」
「その通り」



赤也は苦笑混じりに割り箸を割り、出来立てのきつねうどんに手をつける。



「珍しいね、うどんなんて」
「肉類のメニューなくなっちゃってたんだよね。寒いから学食の奴が増えたんだろ」
「なるほどねぇ。そっかもうこんな寒いんだもんねぇ……で、それで?」
「うん、24も25も部活あるんだけどさ、25日がなんとトレーニングだけになったんだよね。」
「おおお。という事は早く上がれるってこと?」
「そういうこと。時間はあんまないかもしんねーけど」
「いいよ、全然。近場で適当に遊んでいこうよ。」



正直クリスマスもテニス部は部活で遊べるなんて思っておらず、きらきらした街を一人寂しく
帰宅するところを想像しては溜息をついていたから、今すぐ飛び付きたくなるくらい嬉しかった
けれど、小さなガッツポーズを心の中できめ、悟られないようにすまし顔でいた。
ただでさえ最近は遊んでもらえなかったから私は当日が楽しみでそっと想像した。
きらきらふわふわ、そんなぼんやりした妄想が頭の中に蔓延る。
しかしそんなことは彼の次の言葉によって打ち崩されるのだった。



「それでどこ行く?」
「俺さぁ、ちょっと考えてたんだけど、ゲーセン巡りしたいんだよね」
「却下」
「即答すぎ……なんでだよ。お前も好きじゃんゲーセン」
「好きだけども。でもわざわざクリスマスにそれはないでしょ。」
「じゃあは何がいいんだよ」
「イルミネーション見に行くとか!」
「毎日見てるじゃん、駅前の。」



赤也のその言葉に私は目を見張った。……これが男と女の違いなのでしょうか。
私は中学男子の思考を嘗めていたらしい。二言目でこんなに違いが出てくるとは思っていなかった。
確かにゲーセンは好きだ。ストレス発散のためによく行くし、金を気にせず使うことだってあるくらいだ。
しかしそれは日常においてのことであって、特別な日のことではない。
だからどうしてそれがわからないんだろうと自分が疑問を持ち続ける限り、私は引かないと今決めた。




「もっとさ、こう……クリスマスじゃん?クリスマスっぽく行きたいのよあたしは。」
「クリスマスっぽくって……何すんだよ。」
「だから言ったじゃん!イルミネーション見るの!」
「見に行ってどうすんの」
「どうする!?見ることに意義があるんじゃない!」
「えー……」
「ていうかたまにはあたしに合わせろ」
「合わせろ!?いつも合わせてんのは俺だろ」
「はぁ?こっちはあんたの下らない趣向に合わせてやってんのよ」


あ、しまった、言い過ぎた。こんなこと思ってないのに。言うつもりなかったのに。そう思ったときにはもう遅い。



「なんだよそれ!お前はいつもそうやって俺に付き合ってたのかよ!」



しかし私も同じく子供だから、ここまできたら折れたくないという想いで一杯だった。
謝ることが敗北のように感じて、さらに意地を張りたくなった。そしたらもう今度こそ本当に引けない。



「……っそうよ!合わせてたの!だからもういい!あたし一人で過ごしますから!」
「あーそうしてやるよ!お前なんかいなくても十分楽しく過ごしてやるからな!」



こうして私は頭に血が上ったまま、足早に食堂を出て行った。
食器のぶつかる音や喋り声が飛び交い騒然としていた空間に助けられた気もする。








こんな風に喧嘩するなんて久々だった。苛々、苛々。ドアを蹴破りたい衝動を、実行した後の説教やら弁償やら
を冷静に想像して抑えた。その後も赤也が部活に行くまで教室でも目を合わせることはなかった。
しかし放課後になっても私の苛々は収まらず、軽いヒステリック状態で、とうとうおもむろに配られたプリントや
持っていたルーズリーフを千切り始めてしまった。

昔から苛々すると千切る癖はあった。一応理性は備わっていたから物に当たって壊すことに抵抗や恐怖があったのだ。
その代わりというか、自分がどうでもいいと認識した紙は破いてしまうのだった。なんて環境に悪い女だ。
勿論普段からそんなことをする奴ではないので、教室に残っていた周りの人からは怪訝そうな目で見られていた。
本当、何してんだろう。何に苛々してるんだろう。

あんなことで怒るなんて、子供丸出しじゃないか。私の素直な気持ちはどうした?楽しく過ごしたかったのに。
それがあの子供染みた意地の張り合いのせいで、こんなめちゃくちゃになるなんて。





気付けばあんなに沢山あったルーズリーフも三分の一くらい減り、面倒臭くて机の中に溜めていたプリントも
全部細々と切り捨てられていた。私は溜息をついた。
ちょうどその時さっちゃんがクラス掲示板の方へ移動するのが目に入ったので、
私は後ろから覆いかぶさるように腕を回した。




「何してんの?」
「クリスマスの予定。」
「え?」



指差された紙を見上げると、そこには綺麗な流れ字ながらやる気がいまひとつ見えないが、クリスマス会お知らせ
というタイトルがでかでかと書かれていた。今これを貼ったのはさっちゃんだった。



「昼に言ったでしょ。これが私の予定。」
「へー……ていうかこういう集まりみたいなの嫌いじゃなかったっけ?何でわざわざ実行委員?」
「クリスマスに予定なさそうな奴集めて勝手に抽選されて、案の定そのうちの一人に当選していた。」
「……よく引き受けたね」
「暇人の気まぐれよ。」



さっちゃんはそう言いながら鬱陶しいからやめろ、と私の腕は払いのけられてしまった。
ふーん、と頷きながら他に何か理由があるんじゃないかと一瞬思ったが、さっちゃんの事である、
それ以上でもそれ以外でもないのだろう。



「ねえ」
「何」
「これ、あたしも行きたい。」



書かれた内容は「食事しながら語り合い皆で傷の舐め合い、カラオケで寒々しい気持ちを寒い歌に乗せて絶叫、
好きでもない女子を家まで送るイベントに溜息」と容赦のないものだったが、それでも今の私にはものすごく魅力的だった。



「揃いも揃って……」
「?」
「あのねえ、私はいいけど、あんたらが来ると皆が盛り下がるの。わからない?」
「一人で行くんだもん」
「……仲良しなのはわかったから。」
「違っ!だからっ!一人だって!」



さっちゃんは後ろにいた私をきっと睨み、そして呆れ顔で深く息をついた。



「さっき休み時間に切原も同じこと言いにきたんだよ。そんで喧嘩のことも聞いた。」
「え」
「お前ら餓鬼すぎ。」
「……自分でも反省したとこです」
「もう一回言うよ、あんたたちが来ると迷惑なの。だから二人で勝手に過ごしなさい。わかった?」



ちょうどその時、最終下校10分前を告げるチャイムが鳴った。荷物を全て渡され、ぐいっと背中を押される。
戸締りに来た教員に挨拶もせず、私は薄暗い廊下を駆け出した。
体育のときしか滅多に動かないから全力疾走なんて久しぶり。体力にそれほど自信があるわけではなかったけど
不思議なことに今はちっとも息切れなんかしない。私は迷いもせずテニス部の部室前へ滑り込んだ。



何人か出て行くのを見送ってやっと目当ての天然パーマが見えた時、少し離れてからこっそり後ろから腕を掴んだ。
部活の先輩たちと帰ろうとしてたのに無理やり引っ張ったのは悪かったかもしれないが、こうでもしないと
逃げかねないと思った結果だ。私は一緒に出てきた先輩たちにちょっとこいつお借りしますと言いながら赤也を引っ張った。



ほんの少しの間だったのに、なぜか久しぶりのように感じた。私は様々に思い返し赤也の袖を掴んだまま
俯き気味に想いの丈を述べた。だって私はやっぱり赤也が好きなんです。



「ごめん、なさい。ゲーセン大好きです。クリスマス、一緒に過ごしたいです。」



少し躊躇ったけれど、顔を上げた。するとそこには莞爾として笑う赤也の顔があった。



「俺も。」












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メリークリスマス!遅れてすいません(笑)
こういう話は完全に趣味です。
(08/1226)